『新建築 住宅特集』 2015年4月号
2016年02月28日
・みらい平の家
・茨城県つくばみらい市
環境と応答して暮らす
つくばエクスプレス沿線に開拓された敷地。手に入れた当時は、周辺には住宅など何もなかったという。東京都心から30分足らずの地に、研究者一家3人の住まいを依頼された。住まいに対する想いと、それぞれがお互いを紹介し合う形式で書かれた要望書が記憶に新しい。大地に根付き、火を囲み、環境と応答して暮らす素朴な家で暮らしたいと受け取った。のんびりとしたおおらかな敷地に家族の想いを照らし合わせると、ここでの住まいは素朴な素材と簡素な空間で包まれているだけでよいと思えた。
大きく軒を出し、外壁をスギ板で包み、内部を白洲漆喰でまとめた。吹き抜けたダイニングを中心に暮らしが広がっていくプランは大きなデッキに続き、船の甲板のように大地に浮いて、フルオープンできる木製建具で室内と外部空間が一体となる。造園を荻野寿也さんに依頼し、落葉樹を中心に作庭していただいた。南面の大きな開口っは落葉樹とガラリ付網戸で夏の直射日光と散乱光を制御し、冬はダイレクトゲイン（直射日光）でたっぷり陽を入れ、夜は障子やブラインドで放熱を押さえる。
暖房の主力は薪ストーブ。ストーブを立ち上げたら、軸流ファンを動かして吹抜け上部の暖気を床下に送り込む。床下の底冷え解消と建物の上下温度差の緩和を試みる。
木造で重要なことは品質の高い構造材。持続可能な素材の代表である国産材・紀州の山長商店のスギとヒノキを長年愛用している。山長は植林から製材、乾燥CADルームまでの一貫生産体制をもち、高品質な木材をリーズナブルに提供してくれる。
信頼できる国産の木に包まれ、断熱材もセルロースファイバー（木質系）を吹き込み、季節感溢れる樹木に囲まれたこの住宅は、環境と応答して暮らす素朴な住まいとなった。
（伊礼智）
高いクオリティを保つ山長商店の木材
山長商店が提供する紀州材の特徴
紀州材は木目がつんでいて強度が高い。山長は銘木の類ではなくて、実用的で節の少ない建築用材を提供してくれる。そうした背景には林業から製材、プレカット加工まで一貫した山長の生産体制がある。安定した品質で安定した供給を行うために、機械化と職人技の共存もさせている。もうひとつ、「高温上記式滅圧乾燥」を採用しているのも大きな特徴である。窯の圧力を下げ、0.2気圧で沸点を70度に下げられるので、低い温度で水分を取り除くことができ、木に与えるダメージを最小限にしてクオリティの高い無垢材を生み出している。
（伊礼）
